第11章 私の居場所
「くしゅんっ」
「・・・・・・」
寒さに限界が来てクシャミをしたら、目を細めたジンに睨まれた。
黄昏ていた所を邪魔したのは申し訳ないけど・・・一瞬怯んだが、わざとやっているわけではない。
しかし、ジンの顔を見られるのが最後ということは・・・睨まれるのも最後ということで・・・。
どんな形でも、彼の瞳に自分が映っている幸せを噛み締めた。
「あの・・・・・・私、先に部屋・・・戻りますね」
「・・・・・・」
「・・・・・・えっと・・・・・・」
返事がないのはわかっていたが、最後くらい会話らしい会話をしたくて頭をフル回転させる。
背後からではなく、正面からもジンの視線を向けられたい。
声を聞きたい。
最後に・・・・・・
最後に一言伝えてもいいだろうか・・・
あなたを愛しています────
「ジン、あのっ・・・・・・私・・・・・・」
ちゃんと伝えたいのに喋ろうとすると鼻の奥がツンとして言葉が出なくなった。
泣きながら話したら、きっとまた嫌な顔をされてしまう。
上擦る声を落ち着かせたいが、緊張と涙と寒さでどうにもならない。
「あ・・・の、ジン・・・・・・っくしゅ」
「はあ・・・・・・さっさと戻れよ」
呆れた表情で立ち上がるジンに言われ、下を向くしかなかった。
この格好を見せたかった相手に思いがけず見てもらっても、もちろん何も言われない。
それどころか、この格好のせいで身体が冷えて伝えたいことも伝えられず・・・。
馬鹿だと思われているだろう。
自分でもそう思うのだから。
ジンの顔を見ずに軽く頭を下げて歩き出そうとした時・・・・・・肩がふわっと暖かくなった。
「え・・・・・・・・・?」
黒いロングコートを羽織っている。
大好きな人と煙草の香りに抱きしめられているようで、胸がキュッと痛くなった。
「・・・ジ、ン・・・・・・」
名前を呼ぶのが精一杯で、お礼も言えなくて・・・。
「・・・お前には似合わない。二度とするな」
私の横を通り過ぎる時にそう言い捨て行ってしまった。
似合わない・・・?この格好のこと?
否定されても凍っていた心が溶けてきて、長くてダボダボなコートを自分の身体ごと抱きしめた。