第3章 黒ずくめの男
半年も経つとハニートラップの任務に何の感情も持たなくなっていた。
上目遣いで見つめて甘えるように誘えば、男はコロッと落ちてくれる。
すぐに下心を出して情報をくれるから、簡単すぎて拍子抜けしたくらいだ。
ふとした時に、私は何の為にここにいるんだろう・・・と考えるが、泣いても喚いても仕方がないし、バーボンはもう助けてくれない。
最終的にやると決めたのは自分だから・・・。
「僕が側にいる」と言った彼は私の前に現れることが少なくなり、代わりにスコッチやジンの右腕であるウォッカが指揮を執ってくれる。
プライベートで会う頻度も相変わらずだが、久々に会えても甘い雰囲気はなく、激しく私を抱くようになった。
本音は甘えたい。甘やかしてほしい。
バーボンではなく・・・
降谷零に「頑張ったな」「偉いな」と褒めてもらいたい。
・・・なんて。
自分ばかり我儘を言って彼を癒してあげられていないのも事実だ。
「随分顔付きが変わりましたね、瑠愛」
「・・・変わってないです」
「おや、ご機嫌斜めですか?今日はいつも以上に気を引き締めてくださいね。ついにこの日が来ましたよ」
誰のせいでご機嫌斜めなのかわかってるくせに・・・。
彼の顔を見るのが嫌で視線を逸らした。
「任務にてめぇの女連れてくんなよ。バーボン」
突然後ろから低い声がして、ビクッと肩が跳ねる。
自分に向けられた声ではないのに殺気がすごい。
振り向かなくてもわかる・・・・・・"ジン"だ。
忘れかけていたが、私が黒の組織に潜入したのはジンの懐に入るため。
先程バーボンが言っていた「ついにこの日が」の意味をようやく理解した。
「まさか。僕は自分の恋人をこんな所に連れてくることはしませんよ」
「・・・・・・」
彼の言葉にはいちいち棘が刺さっている気がする。
これらに傷付いている私は、今も零のことを愛しているのだ。
嘘をつかれても。ぞんざいに扱われても。
「僕が拾ってきた大事な新入りです。瑠愛、ジンに挨拶を」
嫌だ。怖い。振り向きたくない。