第25章 新しい生活※
寝心地が悪かったわけではない。いつもと違う布団の感触だったり、鼻に入ってくる心地よい匂いが意識を浮上させた。
『ん......』
上半身を起こし数回瞬きした後に、寮生活になったんだっけ、と思い出す。と同時に昨夜のイレイザーヘッドとの情事が頭をよぎった。
隣にはその本人、イレイザーヘッドが無防備に寝ていた。
他の教師たちが起きる前にここを出なくてはいけない。
床に散らばった下着と洋服を拾い集めて着替える。時計を見れば、短い針は4と5の間を指していた。
『お邪魔しました』
小声で言い、ベットのサイドチェストにある写真立てを一瞥してからドアへ向かった。
教師寮を出ると空いっぱいに朝焼けが広がっていた。起きたばかりの身体にひんやりと冷気が纏わりつく。それが幾分、心地よかった。
腕を大きく伸ばして伸びをしてから、左手に見える自分達の寮へ足を動かした。
異変に気がついたのは足を動かしてすぐだった。
音が聞こえてきた。それは1年A組の寮へ近づくにつれてどんどん大きくなる。ぶうん、ぶうん、と空を切るような音だった。
A組の玄関口を通り過ぎて、建物の角を曲がる。A組の寮のすぐ横で音の発生源らしき人物がいた。
『あ......』
「あれ、さん!おはよう!」
こんな朝早くに何をしているのか、私の目の前に立つデクくんはこんな時間から既に汗を垂らしながら爽快に私に向かって挨拶をしてきた。
『おはよ、デクくん。こんな時間から何してるの?』
「寮生活1日目でなかなか寝れなくてさ。結局この時間に起きちゃって、やることも無いから個性の特訓しようかなって!」
雄英の敷地内なら個性使用は許されてるからさ、と言葉を付け加えながら片足を振り上げるデクくん。
ぶうん、ぶうん、と先程まで聞こえていた音が再び鳴る。
「あ、そういえばさんはどうしてこんな時間に?」
振り上げていた足を止めてから、もしかして部屋にまで聞こえてた?と焦り出すデクくん。