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紫の瞳をしたラスボスは今日も怠惰を謳歌する

第14章 怠惰のラスボス


「何よ、目が合うと逸らすなんて」
 ぼんさんが冗談っぽくそう聞いてきた。このフェニックスの話し方は本当に柔らかくてつい聞き入ってしまうな、と俺はどうでもいいことを考えた。突き放すような言葉を使うのに、その口調からは一切のトゲがなく、俺はその優しさについ甘えてしまいそうになるのだ。
「いや……ぼんさんの目が、きれいなので」
 俺は正直に感想を伝えることにした。ずっとタマゴのまんまだったんだし、今日くらいは素直になろうと思って。
「俺の目が?」ぼんさんはわずかに頭を持ち上げて瞬きをし、それから大口開けて腹から笑った。「はははっ、何言ってるのよ。俺は異端のフェニックスなのよ。紫の瞳の色なんて気味悪いでしょ」
「そんなことないです」
「え?」
「そんなことないです」
 俺は自分の言葉が嘘偽りないということを伝えるために真っ直ぐとぼんさんの目を見て言った。
 一方のぼんさんは狼狽えたように体を起こし半歩後ずさる。あとには本当なの、と随分小さな声で訊ねてきた。だから俺は、黙って頷いた。
「あ、ああ、そう……そうなのね……ありがとう、ありがとう……」
 ぼんさんは俺から目を逸らしてなんとかそう言った感じだった。ぼんさんの視線はずっと地面を泳いでいる。
 これがフェニックスの照れ方なのだと分かると、俺は心のどこかでしてやったという気持ちになっていた。会った時からずっと、俺が目を逸らす側だったから、見つめられる気持ちってこうだったのかとぼんさんの狼狽さを眺めていると、また視線が交じ合って時が止まった。
「こういう時、どうしたらいいのか分からないんだけど……」
 それからふわっとぼんさんが近寄ってきて、まだ完全体ではないだろうフェニックスの翼が背中に回り込んで俺の体はすっぽりと包まれてしまった。
「ぼんさん……?」
「ありがと、おんりーちゃん」
 低く穏やかなぼんさんの声が、俺の耳元で囁いた。
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