第2章 後輩Nの苦悩(七海夢)
仮にも先輩を後部座席の真ん中に座らせるのは如何なものかと、最初は思ったが…
「さくらさん、危ないもんね」
「頭にいくつタンコブを作る気なんでしょう」
厚葉さんを端に座らせると車の窓ガラスにゴンゴンと頭が当たる。彼女の隣に座る人も、振子のように揺れる彼女の頭に激突される。
「放っておくとこっちが怪我を負います」
「あはは!最初はびっくりしたよね!
本人自覚ないしさ」
「本当に面倒な人だ」
先輩の面倒を見る羽目になるだなんて。
厚葉さんの顔に後髪がかかり、「うーん」と寝にくそうに唸る。起こさぬようスッと耳にかけると再び穏やかな顔で眠りについた。
「ふふ」
「何笑ってるんですか」
「いや、面倒そうじゃないなーと思って!」
面倒に決まってるでしょう。
そう反論しようと口を開きかけるも、灰原が「さくらさんって不思議だよね」と遮られてしまった。
「階級が4級だけど、全然弱くないし。
むしろ僕達と同じくらい?」
「なぜ昇級しないんでしょうね」
そうなのだ。
彼女は強くなるために積極的に鍛錬をしているし、それなりの実力を備えている。にも関わらず、階級は最下級のままだ。
以前、夜蛾先生が「やる気を起こしてくれれば…」と呟いていた。だから彼女はやる気のない人なのかと思っていたが、真反対だった。
「いつか、理由を教えてくれるといいね」
「そうですね」
彼女の頭がずり落ちないよう、肩を少し低くする。
(本当に、手のかかる人だ)
じめつく熱風を遮断した車内はエアコンが効いていて、彼女の体温を心地良く感じた。
桜が散り青々と茂る木々よりも、日差しが強くなってきた日光よりも。初夏の訪れを感じた任務の帰りだった。
*
「授業長引いちゃったね」
「全く、急がないと」
任務に向かう時間が刻々と近づく。
食べ損ねた昼食を片手に、灰原と厚葉さんを探す。
「あ、さくらさんだ!」
共有スペースの自動販売機の前にいる厚葉さんは誰かと話していた。丁度通路の曲がり角で視界を遮られてしまい、話し相手は誰かわからない。
こちらに気づかない厚葉さんは楽しそうに談笑している。