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あの頃の私達は【呪術廻戦】

第2章  後輩Nの苦悩(七海夢)



 仮にも先輩を後部座席の真ん中に座らせるのは如何なものかと、最初は思ったが…



 「さくらさん、危ないもんね」

 「頭にいくつタンコブを作る気なんでしょう」


 厚葉さんを端に座らせると車の窓ガラスにゴンゴンと頭が当たる。彼女の隣に座る人も、振子のように揺れる彼女の頭に激突される。


 「放っておくとこっちが怪我を負います」

 「あはは!最初はびっくりしたよね!
 本人自覚ないしさ」

 「本当に面倒な人だ」


 先輩の面倒を見る羽目になるだなんて。
厚葉さんの顔に後髪がかかり、「うーん」と寝にくそうに唸る。起こさぬようスッと耳にかけると再び穏やかな顔で眠りについた。


 「ふふ」

 「何笑ってるんですか」

 「いや、面倒そうじゃないなーと思って!」


 面倒に決まってるでしょう。
そう反論しようと口を開きかけるも、灰原が「さくらさんって不思議だよね」と遮られてしまった。


 「階級が4級だけど、全然弱くないし。
 むしろ僕達と同じくらい?」

 「なぜ昇級しないんでしょうね」


 そうなのだ。
彼女は強くなるために積極的に鍛錬をしているし、それなりの実力を備えている。にも関わらず、階級は最下級のままだ。

 以前、夜蛾先生が「やる気を起こしてくれれば…」と呟いていた。だから彼女はやる気のない人なのかと思っていたが、真反対だった。


 「いつか、理由を教えてくれるといいね」

 「そうですね」


 彼女の頭がずり落ちないよう、肩を少し低くする。


 (本当に、手のかかる人だ)


 じめつく熱風を遮断した車内はエアコンが効いていて、彼女の体温を心地良く感じた。

 桜が散り青々と茂る木々よりも、日差しが強くなってきた日光よりも。初夏の訪れを感じた任務の帰りだった。







 「授業長引いちゃったね」

 「全く、急がないと」


 任務に向かう時間が刻々と近づく。
食べ損ねた昼食を片手に、灰原と厚葉さんを探す。


 「あ、さくらさんだ!」


 共有スペースの自動販売機の前にいる厚葉さんは誰かと話していた。丁度通路の曲がり角で視界を遮られてしまい、話し相手は誰かわからない。
 こちらに気づかない厚葉さんは楽しそうに談笑している。


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