第1章 報われない(五条/夏油夢)
「私ね、本当に彼氏が欲しいんだよ?
応援してくれたっていいじゃん。
…私達、それなりに親しいんだから、さ」
放課後のゲーセンに誘ってくれるくらいなんだから、仲悪くないでしょう?
さくらは意中の彼をチラリと盗み見る。
(……はあー)
好き、格好良い。
私なんて眼中にないこともわかってる。
だから告白して当たって砕けるなんて馬鹿なことはしない。
この好友関係が崩れるのが、何よりも怖いから。
(一緒に居られなくなるなんて、考えられない)
この恋はバレてはいけない。
そう、絶対に。
「……わっ、と!」
さくらはぼんやりしながら五条と夏油に引き摺られていると、二人は突然走り出した。目の前には長い降り階段があり……ん?!
「えっ、ちょ!か、階段…!!」
「「…せーのっ!」」
「ぎゃっ!?!」
ふわっ
身体が、重力を失ったかのように宙を舞う。
私は五条と夏油に両手を繋がれたまま、階段を飛んでいく。
「い、いきなりジャンプ!というか、飛び降りないでよっ!!スカート捲れるっ!パンツ見えちゃう!!」
「大丈夫だよ、私達は見えない」
「そりゃ振り向かなきゃ見えないけども!周りに見えちゃう!!」
「黒の見えパン履いて完全防備のクせに、見えるもんも見えねーよ」
「ちょ、何で知ってんの?!」
「「ははははー」」
「ほんっっとクズなんだけどー!!!!」
本当にどうしようもない。
こんなクズに振り回されて、楽しくて仕方ないなんて。
チラリと彼の顔を見る。
楽しそうな、嬉しそうな顔しちゃってさ。本当にズルい。
口が裂けても言えないけども、あぁ、やっぱりこうやって笑い合っているのが大好きだ。
「…報われないなあ」
―――もう少し、この恋に苦しめられてもいいかな、なんて。
*
〜おまけ〜
「しょーこー!!」
「おっ、さくら」
「内緒って言ったのに!どーして合コンのこと言ったのー?!」
「さあ?何ででしょうねー」
大好きなさくらを、どこの馬の骨かわからない奴に渡したくなかった、なんて。
(…口が裂けても言えないっつーの)
言えない想いは、蒸すタバコの煙と共に消えていった。
*