第4章 プレイルーム
私は今…、マスカレイドナイトの
店内の奥の方に位置する。
プレイルームと呼ばれている
小さな個室の中にナオトさんと居る。
あのまま儚い夢で…
終わらせる事も出来るとは、
言われてしまった…にはしまったのだけど…。
どうせ…私が、彼には…どこの誰かも…。
素性も、顔も名前も…知れないのであれば…。
たった一晩限りの、
それも…この時間だけの…。
2人だけの秘密の時間を…共有するのも。
彼となら、いいのかなって。
ナオトさんとなら…、
そうしても…良いなぁって…。
そんな風に…、思えてしまったからだ…。
帰ろうと思ったら、あのまま…、
ここに来ずに彼の言葉の通りに、
舐められた身体をシャワーで洗い流して。
このマスカレイドマスクを外して、
ただのルポライターの
須藤 朱莉に
このマスカレイドナイトを後にして。
戻ればいい…、
そう…戻ればいいだけだった。
でも…、私は…それをしなかった…。
名無しの…名前も持たない、
顔も…持たない…、
ただの1人の女として。
ナオトと言う、本名なのかもわからない。
マスクの下のその顔も知れない彼と。
身体を…、重ねようとしているのだから。
敢えて…、それに理由を付けるのなら。
今夜の…彼との出会いを、
あの…瞬間で…無かった事にするのが。
”惜しい”と感じてしまって。
もう少し…
ナオトさんと…話したいなとか。
一緒に居たいなとか…って、思ったからだ。