第6章 【安室 透】秘密の時間
----*----*----*----*
数学の研究室前。
大きく深呼吸をしてから扉をノックすると、中から「どうぞ」と声が聞こえた。
その声に緊張しつつ扉を開けると、先程のように微笑んでいる安室先生が迎えてくれた。
「さん、早かったですね。
僕に早く会いたかったんですか?」
「・・・昼休みが終わってしまうので・・・」
「ははっ。つれないなぁ」
「・・・不備ってどこですか?」
さっさとやるべきことを終えて教室に戻りたいのに、先生は首を傾げて動く気配がない。
まさか、呼び出した理由忘れてるの?
「あの、提出物・・・」
「あぁ、さんに不備なんてあるわけないですよ。完璧に書けていました」
「・・・は?じゃあ、何で呼んだんですか・・・っ!!」
教師が生徒に嘘をついていいのか。
と、一言文句を言おうとした時、正面からふわっと安室先生に抱きしめられた。
甘くて優しい香りに包まれて、ドクンッと心臓が飛び出しそうだ。
「・・・ドキドキしてるね、可愛い」
「ちょっ・・・先生・・・学校ですよ・・・」
「ですね。今日は、我慢できなかった・・・ごめん」
心臓の音が先生に伝わっているのも恥ずかしいし、耳元で先生の吐息と声を感じるのも恥ずかしい。
私達は教師と生徒。
誰にもバレてはいけない、秘密の関係。
学校では必要以上に話さない、2人きりにならない、という約束を交わしていたのだが・・・何を我慢できなかったのだろう。
「・・・さっき告白されて抱きしめられてたでしょ」
「・・・あれは抱きしめられたというか・・・抱き寄せられた・・・というか?」
「同じだよ。君に触れていたことには違いない」
まぁ、そうだよね。
近付いてくるから避けようとしたのに、先輩の力が強くて悔しいことにヨロけてしまった。
それを見られていたんだ。
「もっと強く断った方がいいよ。そもそも、呼ばれて素直に付いて行くことないと思うけど」
「ちゃんと断ってますよ!さっきだって、はっきり無理ですって言ったし・・・」
「前から思ってたんだけど・・・このワイシャツ、ボタン開けすぎじゃない?角度によっては下着が見えて誘ってると思われるよ」
「っ・・・!!」
顔から火が出るほど熱くなり、襟元を両手で押さえた。