第13章 白蛇のため息
「ただいま〜」
と言っても返事はないのだが、私は一人暮らしの家に雑に荷物を下ろして着替えを済ませる。
それから洗面所へ向かい、化粧を落とそうとして鏡を見て気が付いた。
……頭の上に、何かいる。
そう。私が「いる」というものは大抵幽霊のことである。しかも、見知った幽霊の。私の守護霊ではない。
だって、私には守護霊がいないんだもの。
私の頭の上には、とぐろを巻いた白蛇がいたのである。鏡越しで私を見つめて、ペロリと細い舌を出して。
これはやはり夢なんだと、私は顔を洗い、お肌のケアをする。その間ずっと頭の上に白蛇がいた。顔を傾けたくらいではズリ落ちてはくれない。
私は夕食の準備をするのも忘れて寝室へ向かった。寝室には姿見鏡があるのだ。一人暮らしのお祝いに、親が贈ってくれた大きな鏡の。
私はその鏡の前に座り、話し掛けていいものかと悩んでいると、なんと白蛇が言葉を発したから息を飲んだ。
「何を躊躇っておる、視える人間よ」
「へっ……喋った……?」