第1章 動き出した歯車
わたしが生きるこの小さな世界は、
持つ者と持たざる者に分けられるらしい。
幼い頃から自分を見る人の目がわたし自身ではなく、わたしの〝持つもの〟にあることを感じていた。
記憶の中の父と母は優しかった。
わたしを愛してくれていたと思う。
ただ、二人がわたしに何かを望んでることは気づいてた。
だから6歳を迎えたある日、わたしが二人の望みを叶える存在だとわかった時、父と母はとても喜んでくれた。
●歳上の兄がいた。
優しくて、いつも穏やかで、怒ったところなど一度も見たことがなかった。
兄は手のかかるわたしにも嫌な顔一つせず世話を焼いてくれて、
いつも「繭はいい子だね」と頭を撫でてくれた。
わたしはおにいちゃんが大好きだった。
兄は〝持たざる者〟だった。
6歳のとき、わたしを庇って怪我をした兄の傷にいつものように〝痛くなくなるおまじない〟をかけたら、その日はほんとうに傷が消えた。
わたしはおにいちゃんの痛みを消してあげることができて喜んだが、おにいちゃんは見たことのないへんな顔をしていた。
それから、
「かわいそうな繭」「お兄ちゃんが繭を守ってあげるからね」と言って、わたしをぎゅっと抱きしめた。
いつもならわたしがおまじないをかけると「繭は優しいいい子だね」と微笑んで褒めてくれるのに。
その日から、わたしの世界は変わった。
わたしのおまじないは特別な力だと言われた。
わたしには〝じゅりょく〟があって、
おまじないは〝はんてんじゅつしき〟というものらしい。
誰もが持っている物ではないから、すごいことだとみんなから褒められた。
わたしの家では、ひいおばあちゃんのもっと前のおばあちゃんしか持っていなかった特別な力なんだって。
母は泣いて喜び、その日は誕生日よりも豪華なご飯が食卓に並んだ。
次の日にはわたしの〝親戚〟だという初めて見るおじさんやおばさんがわたしの家に来て、よかったね よかったねとみんなしてわたしを褒めそやした。
それから、たくさんのことをお勉強した。
〝じゅじゅつ〟のこととか、わたしのおうちのこととか。
むずかしいことばっかりで楽しくなくて、
ひとりじゃいや、おにいちゃんと一緒がいいとわがままを言ったけど、ダメだと言われた。