十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第8章 8
僕は「ごめんなさい」と、それから「ありがとう」の言葉だけを残し、車を降りようとドアハンドルに手をかけた。
でも…
「智…」と名前を呼ばれ、振り返った僕は、潤さんの腕に引き寄せられ、気付けば僕の身体は潤さんの胸にすっぽり包まれていた。
「潤…さん?」
「ごめん、これで最後にするから、だから…」
突然のことに驚き、上向いた僕の唇に、潤さんの唇が重なった。
少しだけ震える唇は、軽く触れただけですぐに離れ、僕を包んでいた腕も、何事も無かったかのように離れていった。
「本当は送ってやりたいけど、ごめんな…。これ以上一緒にいたら、お前のこと手放せなくなりそうだから」
顔ごと車窓に向け、僕を見ることなく言った潤さんの肩が、心做しか震えているように見えて…
僕は今度こそドアハンドルを引き、車から降りると、振り返ることなく歩き出した。
角を曲がるまで、車はその場から動くことはなく、僕の姿が見えなくなったところで漸く、ヘッドライトが灯った。
車が轟音を立て、僕の背後を過ぎ去って行くのを、僕は勝手に溢れて来る涙を拭いながら聞いていた。
凄く胸が痛くて、苦しくて…
でもきっと僕なんかより、潤さんの方がもっと痛くて、苦しいんだろうなって思うと、僕が泣くのは間違ってるんじゃないかって思う。
でもさ、涙が止まらないんだ。