十年・愛 〜あの場所で、もう一度君と…〜【気象系BL】
第1章 1
ガックリと項垂れる僕を乗せた車が、クスクスと肩を揺らす翔くんの運転で漸く動き出し、チラリとサイドミラーに視線を向けると、少しずつ遠くなる景色の中で、満面の笑みを浮かべたニノが、両手をブンブン振っていて…
え、どういうこと?
さっきまであんなに駄々こねてたのに?
ニノのことだから、泣きは…しないだろうけど、絶対不貞腐れてるだろうと思ったのに、なんで笑ってんの?
意味分かんないんだけど…
軽い違和感を感じながらも、何はともあれ快く(なのか?)送り出してくれたことで、少しだけホッとしたのは事実。
「なあ、何食いたい?」
「う〜ん、ラーメンかな」
「ラーメンか…。じゃあさ、前に智くんがバイトしてた店、なんだっけ…」
「相葉亭のこと?」
何年か前のことにはなるけど、数ヶ月だけ行ったバイト先が、ニノの親友が経営している相葉亭。
拘り抜いたスープと自家製麺で、店自体は小さいけど、常に待ち客が行列を成す人気店だ。
一度は翔くんと、ってずっと思ってたけど、確か…
「今日定休日かも…」
「マジか…」
「うん、残念だけど…」
せっかくだから、雅紀さんに翔くんを紹介したかったんだけどな…
「定休日じゃ仕方ないか…。別の店にする?」
「そうだね、また今度行こう」
店が営業を続けている限り何時でも行けるんだし、また翔くんの休みにでも行けば良い。
「ね、翔くん」
「あ、うん、まあ…、そうだな」
その時、翔くんがどうして浮かない返事をしたのか…
僕はその理由すら、考えようとはしなかった。