第2章 海と世界
ドズル社での撮影時間。ギリギリだったかな、とゲームにログインすると、珍しいことに他の人がまだだった。ドズルさんもおんりーもおらふくんも、確かそれぞれ別のところで撮影しているんだったけか、とログイン状態を確認して驚いた。ぼんさんがいる。
いつも遅刻しているぼんさんが先にいるなんて珍しいこともあるんだな、とよく見て気づいた。スタッフもログインしていない。つまり、二人きり……?
にしても、ぼんさんはどこにいるんだ? と見回すと、海上に何かが浮かんでいる。近づいて海を覗き込むと、ぼんさんが海底に沈んでいた。
見ると通話グループにはすでにぼんさんが入っている。ここまで近づいて置いて、話しかけないのはあとで何か言われそうだ。
「何してんすか」
通話を繋げ、海へ飛び込んだ。ああ、MEN、とぼんさんはなんてことはないと言うかのように海面を見上げた。
「昆布がさ、ゆーっくり上にあがっていくのを見て、なんかいいなって思って」
「はぁ……」
感傷にでも浸っていたというのだろうか。俺もぼんさんが見上げている方向を見やったが、いつものゲーム画面って感じで、俺には何も共感出来ない。
「ぼんさん、今日センチっすか」
ぼんさんがネガティブになることは度々あったが、撮影前からこんな雰囲気だとこのあと大丈夫かな、と一瞬だけでも思ってしまう。
「センチって何よ。センチメートルの略だっけ?」
「違うっすよ……」
「ふふふっ」
俺が親切に説明しようとしたら、ぼんさんはいつものように笑い出す。全くこの人は、どこからが冗談でどこからが本気なのか俺には分からない。
「こうしたらどうっすか」
俺は自分がクリエイティブモードだったことを確認し、コマンドを打ち込んだ。俺を中心に、適当なエフェクトが飛び出して海面に向かっていくコマンドを使ったのだ。
「ふっふっふっ、それじゃあ花火みたいだな」
確かに、そうかもしれない。俺はそう思いながらもコマンドを打つ手は止めなかった。