第6章 花と恋
花と恋(霧)
花見の片付けが終わっても、みんなが棘の部屋に集まっていた。ゲームもお菓子も山のようにあって、お風呂から上がっても、揃って棘の部屋に帰ってくる。名残惜しい気持ちはよく分かるが、霧は体力の限界だった。
一瞬、目を瞑っただけだったのに、次に目を開けた時、部屋は暗くなっていて、布団を被っていた。あれ、と静かになった部屋に、もう一度瞬きをする。
「たかな(起きた)?」
今まで聞いたことのない近さから聞こえた声に、びくりと身体が震える。まさか、同衾か。霧の耳に届くのがやっとの、掠れた小さな声なのに、やけに響いて、心臓が飛び出しそうだ。
霧に伸ばされた手が、頬に触れて、髪を撫でた。彼が身体を寄せてきたから、霧は思わずギュッと目を瞑る。ドクドクと心臓の音が響いている。
耳に押し付けられた彼の唇の感覚に、息を飲んだ。
「すき」
彼の息が耳に当たって、背中がゾクゾクと震える。まるで走り回ったみたいに、身体が熱くて、息が上がって、おかしくなってしまいそうだ。
「かわいい」
目を細めて霧を見る棘が、掛け布団の中で、手を差し出した。左手の人差し指を立てて「しゃけ」。右手の人差し指を立てて「おかか」。この指止まれと言わんばかりに、目の前に人差し指を出す。
分かってる。こんなに心臓が煩い理由も、身体が熱い理由も。
彼の左手の人差し指を、握る。
「私も、好き、です」
握った手は、指を絡まれて握り直され、そのまま寝具に押し付けられた。いつもの優しい手とは違う、獰猛な男の手は、霧の力では抵抗すらできない。舐めるように重ねられた唇から、啄むようなキスが降り注ぐ。