第5章 勉強も訓練も
勉強も訓練も(狗巻棘)
任務の報告がてら渡された2年の教科書に、棘は顔を顰めた。春休みも終わりのカウントダウンが聞こえ始める。休みだからといって呪霊が減る訳ではない。このまま任務に明け暮れて、春休みも終わってしまいそうだ。
気晴らしに訓練場の隣の道を、口笛を吹きながら歩いて帰る。広場に人の気配を感じるが、今日はみんなそれぞれ任務だったはずだ。覗き込んで見えた風景に、棘は笑った。
恵は凪と楽しそうに組手をしているし、霧は玉犬と走っている。なんていい眺めだろう。可愛い後輩たちが、訓練に励んでいる。
ご機嫌に階段を駆け降りる棘を、最初に見つけたのは玉犬だった。急角度で方向転換し、棘に向かってくるのが嬉しくて、教科書を投げ捨て両手を広げる。思いっきり撫で回していると、訓練中だと恵に叱られた。許せ、恵。こちとら任務明けだ。癒しを所望する。
続けて、息を切らした限界の霧が、ヘトヘトになってやってきた。こちらも両手を広げてやると、何の疑問も持たずに飛び込んでくるから、可愛い可愛いと撫で回す。
「明日も走れよ」
やれやれとため息を吐きながら歩み寄る恵にも手を広げてみるが、心底嫌そうな顔をされるだけだった。恵の後ろから、凪が階段に散らかった教科書を一冊ずつ拾っている。
「勉強は嫌いでも、教科書は大事にしてください」
手渡される教科書の束を、反省しながら受け取った。凪の叱り方は、相手のことを思っていると分かるから、受け入れ易い。小気味良いとすら思える。
「数学なら、霧ちゃんが得意ですよ」
「三角関数は特に」と付け加えられた凪の言葉に棘は「えっ」と不審な声を上げた。年下だよなと、凪をまじまじ見ていると「こいつら、英語と数学は終わってるみたいですよ」と恵が答える。
「こんぶ…(終わってる…)?」
勝ち誇る凪を前に、棘は両肩を落とした。