第5章 勉強も訓練も
勉強も訓練も(凪)
ドサドサと冊子を積み上げる音に、凪は部屋の扉を開けた。続けて聞こえる恵と霧の声の方へ向かう。
「これ、お前らの」
3つの冊子の束に分けられた塊を前に、恵が指をさす。彼は残ったひとつを抱えて、さっさと部屋に片付けてしまった。神妙な面持ちで冊子の中から「数学Ⅰ」の教科書を捲る霧に並んで、凪も手を伸ばす。
「私たち…ここにいていいのかな」
今年一年分の教科書の束を、戸惑いながら捲る霧に、凪は笑った。ここに教科書があるのなら、きっと大丈夫だろう。
「駄目でも、教科書だけ貰ってこ」
連れ戻されたら、その時はその時だ。貰えるものは、有り難く受け取っておこう。凪の返事に「そうだね」と答える霧が、嬉しそうに笑う。知ってる事しか載っていない教科書だが、何だか嬉しい。
「何とかするだろ、五条先生が」
あっという間に自分の分を片付けてしまった恵が、会話に割り込む。
高専に来る時も、五条の一存だった。『持たざる者』ばかりの氏族で、囁やかに伝えられてきた口伝の教えを相伝と呼び、的確に凪と霧を選ぶ鮮やかさには、舌を巻いた。みんなが『ご神体』と呼ぶ鵺を勝手に持っていった恵には思う所があったが、どうせみんな見えてはいなかった。凪だけが慌てていて、霧だけが狼狽えていた。
ここにいれば、不確かだった教えも、形が見えてくる。鵺もいる。霧とふたりで、ボロボロの書物を読み漁らなくても、答えがあるのだ。
「午後から暇なら、組手に付き合ってくれ」
先輩たちがみんな任務に出払っていて、持て余している恵に捕まる。一族内では負けなしだった凪だが、高専に来てからは、誰にも歯が立たない。このまま生徒になれるかどうか分からないが、訓練させてもらえるなら、願ったり叶ったりだ。
「いいよ」