第8章 Jeremiah29:11
その贖罪というわけではないけど……
医者にはなろうと思ってる。
これまで期待のないのが苦痛でなりたくもないと思いながら勉強していたが、智のお陰で医者になりたいという気持ちが高まった。
少しでも家族の…桜井病院の役に立てればいい。
跡は継がない。弟にその席は譲るつもりだ。
どうせ子供も作ることはできないだろうし。
それは家族には言ってある。
否とも諾とも返事はなかった。
ただ、了解したと。
…性癖のことは知っているのか知らないのか…
父親も母親も、ついにそれを口にすることはなかった。
「ただいま」
家に帰って玄関のドアを閉めると、とてつもなく静かになる。
靴を脱いで上がって、洗面所で入念に手を洗うと、いつものように寝室に向かう。
ドアを開けると部屋の中は真っ暗で。
廊下からの光に反応したのか、ベッドの上の影が動いた。
「…ああ…おかえり…」
ガラガラの声。
今まで寝てたのかな。
「ごめん。起こした?」
「…今、何時…?」
「電気つけるね」
暗い部屋のライトを付けると、ベッドに横になっている智は眩しそうな目をした。
「夜の8時だよ」
「もうそんなになるか…」
被っていた布団を退かすと、上半身を起こした。
「調子はどう?」
「ああ…あんまり変わんねえな…」
額に手を当てると、熱がまだ少しあるように感じる。
刺し傷はだいぶ良くなったんだけど、まだ本調子には程遠い感じだという。
「焦らないことだよ。今は、栄養取って寝るのが一番の早道だからね」
「ああ…」
ちょっと痩せたかな…?
どうもただの刺し傷ではないとは思っていたけど、ここまで長引くとは思ってもいなかった。
でも俺にとって、智が治らないのは…
好都合なのかもしれない。