第2章 Matthew 6:8
ある程度沖合に出て、船を停める。
船の中に予め用意してくれと頼んであった物を探す。
「あった」
運転席のすぐ後ろにある物入れのなかに用意されていた。
しかし作業は屋根のないところでしなければならず、げんなりとしながら物を取り出した。
ブルーシートでおっさんの死体を包んで紐でがっちりと包む。
そこに錘を長い紐に結んだ物を括り付ける。
死体を海に投げ入れてから、錘を船から投げ入れる。
腐ったガスを含んだ体が浮いてこないようにするんだ。
数日、見つからなければいい──
そんな依頼だったから、ここも隠蔽は適当でいい。
それにここは潮の流れが沖に向かっているから、万が一死体が流れても発見は遅れるはずだ。
処理に時間を掛ければ、人に見つかる恐れがあるからスピード重視だ。
……それに、自分がもう保たないかもしれない
力を入れようとするが入らず、手からロープが離れて行ってしまう。
おまけに膝からがくりと力が抜けて、尻もちを着きそうになる。
血が出過ぎているのか、雨に当たって体が冷え過ぎているのか。
そういえば、数日前から少し風邪気味だったかもしれない。
鼻炎持ちだからいつものことだと薬も飲んでいなかった。
もしかしたら、本格的な風邪になっているのか。
背中をゾクゾクと寒気が走っていった。