第2章 Matthew 6:8
「…こんな時にバカか俺…」
油断するなといつも言われているのに。
最近じゃもうこんなミスしなくなってたのに。
「…バカかじゃなくて、バカだな…」
独り言でも言ってないと、気を失いそうだった。
頬をぶん殴って、なんとかひとつひとつの作業をこなす。
遠くに船が居るような気がして、気ばかり焦る。
岸から人が見ている気がして、何度も周囲を伺ってしまう。
やっとオッサンを海に沈めることができた頃には、もう時間の感覚もなくなっていた。
なんとかスマホを取り出し、エージェントの雅紀に連絡を入れた。
すぐに留守番電話になった。
電源を切ってるらしい。
そういえば、今日は和也が仕事してるんだっけ…
俺と同じ稼業をしてる、和也。
俺よりもだいぶ年下だ。
腕は俺よりは落ちるが、俺よりも頭が切れるからドジは踏まない。
だからいつだって、年下のくせに俺を茶化して、ニマニマ笑ってるんだ。
弟みたいな存在…
きっと雅紀はそっちに行ってる。
なんでも相手が悪いとかで。
多分こっそり見守ってるんだ。
「あー…今、終わった。ちょっとドジったから船の始末頼む。また連絡入れる」
留守電に手短に用件を入れて通話を切った。
もうこの船の始末をできそうもなかった。
ここから遠ざけておかないと、あのオッサンの死体が見つかったときに面倒なことになる。
「…運が悪ぃな…」
時々、雅紀は見回りと称して俺たちの仕事を見守りに来てる。
多分まだまだ頼りないって思ってるんだろう。
雅紀は見た目は若いけど、40歳超えてるオッサンだ。
20代の若造の俺たちが足を引っ張らないか、心配なんだろ。
その見回りが今日は和也で、俺じゃなかった。
ただそれだけのこと。
「…まあ、それも運か…日頃の行いか…」
そこまで言って、可笑しくなった。
日頃の行いなんか、俺も和也も雅紀も…
悪いに決まってる。