第8章 Jeremiah29:11
「え…?そんなんでどうやって調べろって…」
半ば呆れたように手帳を閉じてテーブルに置いてしまった。
誂われたとでも思ったんだろうか、不機嫌に足を組むとじっと見据えられた。
「潤、聞いてくれ…」
「お待たせいたしました」
説得しようとしたその時、店員が来て潤の注文した物を置いていった。
潤はため息をつくと、カップに手を伸ばした。
「お…いい香りだ」
「ああ。ここのは本当に美味いよ」
そう言って俺は冷めたコーヒーを啜った。
それを見て潤も淹れたての芳香を放つ液体を口にする。
「美味いな。フレンチローストなのに重くなりすぎてない」
「だろ?」
少し、潤の表情が和らいだ。
「で?どんな事件なわけ?それは」
機嫌が良くなったのか、潤の方から水を向けてくれた。
「…親子3人の放火殺人事件だ。犯人は当時高校生の息子ってことだ。その息子は逃亡して捕まっていない。未解決事件になるんだと思う」
「へえ」
潤は手帳を手に取ると、サラサラとメモした。
「場所はわからないし、犯人や家族の名前もなにもわからない」
「ないないづくしだな」
「だから…潤に頼んでるんだ。時間がかかってもいいし、必要経費も出す。だから…」
「調べてどうするんだよ?」
眉間に皺を寄せ、鋭い口調で話を遮った。
潤はルポライターを生涯の仕事として真剣にやっていきたいと思っている。
それを利用する形になる。
それにこんな情報しかない依頼、俺でも馬鹿にされてるのかと勘違いすると思う。
怒り出すのは想定内だった。
潤が食いつきそうなセリフを用意しておいてよかった。
「…もしも、犯人が息子じゃなかったら…?」
「え?」
「犯人が別に居るってわかったら、潤ならどうする?」