第7章 1 Corinthians 10:13
「ふうん…家事、向いてない系…?」
「だと思う」
おかゆですら上手く作れない。
何度やっても微妙で。
だから向いてないんだとは思う。
「よく一人暮らしやってけんな」
「ここは住んでるだけだから…」
ご飯とかは外で済ませばいいし、掃除とか洗濯の家事は家政婦さんが週一でやってくれてるから。
後は気になったとこを自分でちょいちょいやればいいから、楽なもんだった。
智が来るまでは。
「勉強にできるだけ集中したかったんだよ」
「医学部、だよな?」
「そう」
「…桜井総合病院の跡取りだっけ?」
智は伺うような目で俺を見てる。
「俺、言ったっけ…?」
言った覚えがないけど、智も雅紀って人も知ってた。
「言ったよ。俺を助けてくれた時に」
「そうだっけ?慌ててたから良く覚えてないや」
智がそう言うなら、そうなんだろう。
できるだけ智を安心させようとしたのかな。
「まあもう…弟いるけど、家族以外は俺が継がなきゃいけないって雰囲気ではあるよ」
「家族以外って…家族は?」
「好きにしろって」
「本当は継ぎたくない…?」
「…そうだね。最近医者にはなりたいとは思うようになったかな」
そういうと智は眉を顰めた。
「今まではなりたくなかったのか?」
「うん…家業だからなるようにって周囲のプレッシャーがあったから、なりたくてなるわけじゃないって思ってた」
「最近って、なんかあったのか?」
それは…智を拾ったから…
って言ったら、智はどう思うんだろ。
こんな俺でも、人を救うことができるかもしれないって…
でも、ほんとうの意味で智のこと救うのは難しそうだった。
だから本当のことを言うのはやめておいた。
「ううん。別に。…経営をね、したくないんだ。院長ってそういうこともしなきゃいけないし。俺は医者にはなれそうだけど、経営者には向いていないと思ったんだ」
そう言うと、智は少し頷いて目を逸らした。
「すげえな。翔の年でそこまで考えられるなんて…」