第7章 1 Corinthians 10:13
「そう?そんな大した悩みじゃないけど。選択肢は限られてる」
「そうだとしても、すげえよ。俺がその年の頃は…」
言いかけて、やめた。
多分逃げ回っていた頃を思い出したんだろう。
殺してもいない罪から、逃げ回っていたんだ。
家族の死を受け入れられなくて。
逃げてしまったら、そのまま取り返しのつかないことになってしまった。
だから、智は薄暗い世界で生きているんだろう。
「なにも考えてなかった」
「まあ…20歳なんて、世の中から見たらガキだよね」
「ああ。今になると、あの頃は…とんでもなく子供だな」
ふっと懐かしいものを見るような目で、遠くを見た。
「今は…ガキじゃないの?」
「ガキに見える?」
智はちょっとむっとした顔で俺を見た。
「智、いくつなの?そも」
「…28だ」
「えっ!?そんなに上なの?」
「仮な」
「そう、だよね…」
本当の年を言うわけないよね…
智って名前だって、本名じゃないわけだし。
どうにか…
智が語ってくれたあの事件を調べることはできないかな。
そうしたら智の素性もわかってしまうだろうけど。
そしたらご家族のお墓も…
調べることができるだろうと夢想してしまった。
そんなこと、できる日なんて来るわけない。
だって智は本当のことは言わないから。
俺と智の関係は、智の身体が治ったらこのまま終わってしまうんだ。
きっと。
でも…
このままで終わりたくはない。
なにか俺にできることはないか──
そればかり考えている。
【1 Corinthians 10:13 END】