第7章 1 Corinthians 10:13
「なあ…翔…」
「ん?」
キッチンカウンターの向こうに置いてある、ダイニングセットに座っている智が、テーブルに頬杖をしてこちらに顔を向けている。
視線は俺を見てなくて、どこか宙を彷徨ってる。
あの日からこんなことが多くなってる。
「墓参り…」
「え?」
「墓参りって、行ったことある…?」
「あるけど…父方の祖父母はもう亡くなってるから」
「そっか」
「ご家族のお墓参り、行きたいの?」
「…まあ…でも、どこに墓があるかわからねえんだ」
そんなの、調べてあげるのに。
金なら生活費として渡されてるのが余るから、貯金してある。
でも俺は、未だに智の本名を知らない。
事件のことについても、東京なのかどうかのかもわからない。
だから手の出しようもなかった。
「智は…どこに住んでたの…?」
味噌汁の具を切っている手を止めて智を見つめた。
智は今度こそ、俺を見た。
そしてそのまま薄っすらと笑って。
何も答えなかった。
「俺、調べてあげようか?」
「え?」
「その、智が本名とか言うの嫌だったらあれだけど…お墓の場所、探偵とかに頼めばわかると思うけど」
「…いい…」
そう短く答えた。
「…そっか」
でも、行きたいんだろうな。
あの日から初めて、智の能動的な言動だ。
だからできれば叶えてあげたかった。