第7章 1 Corinthians 10:13
初めて智を見た時、一瞬で今まで出会ったどの人とも違う世界のひとだということはわかった。
頭の中で危険だと警報が鳴り響いていたが、血を流して倒れている人を放っておくことはできなかった。
不思議だ。
なりたくて医者になるわけじゃないのに。
いつもなら身の安全のため危険を避けて通るのに。
面倒ごとからは全力で逃げるのに。
今までそう習ってきたし、そうしてきた。
なのに放っておけなかった。
だって、その痩せこけた顔が誰かに似ていたから。
今でも誰だかは思い出せないんだけど。
でも昔から良く知っている、誰かの顔。
「翔…?」
「あ、ごめん…」
あの日のこと思い出してたら、歩みが止まってしまった。
「これから御飯作るからさ。何作ろうかなと思って」
「飯は…」
「大丈夫。ちゃんと炊飯ジャーで炊くから焦がさない」
あからさまにほっとされても不思議と腹は立たない。
これが学校の友人や家族だと、なにか物を投げつけてやりたいほど腹が立つだろうに。
智にはそんな衝動起こらない。
起こるわけがなかった。
だって、俺は…智が好き。
多分、出会った瞬間。
恋に落ちた。
「安心しないでくれる?」
「え?」
「だって俺おかずは買ってきたけど、味噌汁は作るよ?」
「味噌汁!?」
「ああ…今日は麩の味噌汁を作るよ…」
「なんだって!?」
「これが本当の、キョウフ(今日、麩)の味噌汁」
ぎゅうっと智に足を踏まれた。
随分元気になったようで、俺、嬉しい。