第7章 1 Corinthians 10:13
ずっとベッドで寝てるだけの日々だから…
とにかく俺が家にいる間だけでも、気分転換させたかった。
あの日から智は、塞ぎ込んで…
俺と一緒に居てもぼーっとしている時間が増えた。
あの記憶は、智にとってどれだけ重しになっているんだろう。
今でもその視線の先には、智の家族の幻覚が見えてるみたいで…
智が黙っていると怖かった。
また、ひとりで傷ついてるんじゃないかって。
「さ、行こうよ」
智の身体に腕を回して、体を支えた。
ゆっくり歩く智に合わせて、足を運ぶ。
偶然だったけど、バリアフリーの部屋を選んでおいてよかった。
俺の家は、海辺にあるマンションに昔から部屋を持っていた。
爺様の頃は住んでいたりもしていたらしいが、父親の代になってからは別荘にしていた。
昭和の匂いがする建築で、部屋の中はリフォームをしていなかったから、ちょっとした段差だらけだった。
実家は…どうだったか。
何度か引っ越しもしているし、あまり思い出せなかった。
一人暮らしを始める前まで俺は良く一人であの別荘で寝泊まりをしていた。
小さな頃から変わらないのはあの別荘だけだったから。
別荘にいるのは心地よかった。
だから、あのマンションがなくなると聞いて、いつまでも荷物を取りに行く気にはなれなかった。
智を見つけたあの日……
そのマンションの部屋から、置いたままになっていた自分の荷物を引き上げてくるところだった。
実習が入ってしまって、言われていた期限の時間より随分遅くなってしまった。
お陰でマンションの管理人には随分と嫌味を言われた。
数日後には取り壊しの作業に入るとかで、急かされていたが、実習が立て込んでいて忙しいわ遠いわですぐに取りに行くことができなかった。
代わりに父親なり母親が引き取ってくれてもいいものだが、高校生の頃から一人暮らしする俺には、両親ともそんな情は湧いてこないようだった。
そう…どちらも。
一生掛かっても、そんな気にはならないだろう。