第7章 1 Corinthians 10:13
「精神的外傷(トラウマ)?」
「ああ…」
「そんなもん、どこで受けたっていうんだっ!?」
男は俺の胸ぐらを掴んだ。
激昂するってことは、この人やっぱり知らないみたいだ。
だから詳しいことは言わないことにした。
「し、知らないっ…若い頃だってっ…」
「若い頃…?」
急に男の腕から力が抜けて、俺は地面に尻餅をついた。
「そんな……」
青い顔をしている。
まるで自分の子供に長いこと隠し事をされてた父親みたいな顔をしてる。
チクリと胸が痛んだ。
智には、こんな顔して心配してくれる人が居るんだ。
俺には──
「とにかく、そのトラウマが出て一時は自傷でもしそうなくらい落ち込んでたんだ。やっと安定してきたとこだから、今うちから動かすことは出来ない」
立ち上がりながら言うと、男は俺を力のない目で見る。
「精神的動揺のあった後は環境をあまり変えない方がいい」
「ハハ……それはガッコウで習った事かよ?」
「ああ。そうだ」
じっと見返すと、男は目を逸らした。
「わかった…」
「ちゃんと回復するまで俺が看る。だから…」
「わかったって言ってんだろ」
力なく言い返すと、俺に背中を向けた。
「智を頼む…」
そう言って歩き出した。
ずいぶんその男が歩いたところで、若い男が近づいていくのが見えた。
咄嗟に、その場から走って逃げた。
もうこれ以上の足止めはごめんだった。