第7章 1 Corinthians 10:13
「親戚の人としか聞いてない」
「あいつ…ちゃんと説明しとけって言ったのに…!」
「だからまだそんな状況じゃないんですよ、彼は!」
思わず大きな声を出してしまった。
男は驚いたような顔をして俺のこと見てる。
でもすぐに顔色が変わった。
俺の肩を掴むと、顔を近づけてきた。
「…智に、何があった」
さっきまで見せていた余裕が見られなくて。
急に怖くなって詰められた間合いの分、飛び下がろうとしたが無理だった。
腕をがっしりと掴まれて、背負っていたリュックまで掴まれた。
「言え。何があった」
「…なにも…」
「嘘を言うな。電話したときは声に力があった。あのくらいならもう起き上がることくらいできるだろ?」
「それは…」
どうしよう。この人は智のあのことを知っているんだろうか。
智をずっと悩ませている、死んだ家族の幻覚のことを──
「櫻井翔さん、よ」
脇腹になにか当てられた。
ごつりと硬い、鋭利なもの。
「正直に言ったほうが、身のためだぜ…?」
もしも智がヤクザの構成員だとしたら…
そう思ったことはほぼ正解な気がした。
「…精神的ショックを、受けてる」
「は?」
「若い頃に受けた、精神的外傷…怪我以外にもその回復がまだできてない」