第7章 1 Corinthians 10:13
「あんた、智がなにやってる男か知ってんの?」
後ろ暗いことをしてるってことはわかるけど、具体的にどんなことやってる人かはわからない。
だから答えないでいると、男は溜息をついた。
「あいつ…腑抜けやがって…」
舌打ちしそうな声色。
なんだか怒っているようだった。
「恋人だかなんだか知らないけど、早くあいつを回復させたいとは思わないわけ?」
「えっ…」
恋人?
今、恋人って言った?この人…
「なにびっくりしてんだよ」
「えっ…いや…」
智、俺のこと恋人だってこの人に説明してるんだ。
なんで…そんな事実は一切ないのに…
一方的に、俺が…好きなだけなのに。
「さ、智がそんな事言ってたの…?」
考えろ
きっとなにか理由があるはず
「ああ。電話でそう言ってた。恋人だから、あんたのとこに世話になるって…俺も初耳だったけど…もしかして違うのか?」
「いっ…いやっ…その…」
きっとなんか『恋人じゃなきゃいけない理由』があるはず。
「そ、んなこと…本当に智が他人に言うなんて、思ってなかったから…」
「他人…?」
その言葉に、少し苛ついたようだった。
少し『恋人』って言葉から意識を逸らせたからホッとした。
「智から聞いてない?俺、智の身内なんだけど」
身内って…ヤクザでもそういう言い方するのを知ってる。
智がなにか後ろ暗いことをしてあんな目に遭ったのはわかってる。
だからこの人は、本当の親戚じゃない確率のほうが高いんじゃないかと思った。