第7章 1 Corinthians 10:13
「智、いつ引き取れる?」
歩き出した俺の背中に無遠慮に言葉が投げかけられる。
「まだ回復してません」
事実、智の回復は遅かった。
ただの刺し傷じゃないことは明らかだったが、検査できるわけでもなく。
対処療法をしているが、先日のボヤ騒ぎの精神的ダメージもあって、まだまだ時間が掛かりそうだった。
「あんた、ちゃんと治療してんだろうな?」
敵意のあるものいいに、カチンと来た。
「…なんだと…?」
「医者じゃないんだろ?まだ…」
「そうだけど?それがなに?」
「えらい開き直ってるじゃないか。医者でもないのに…」
男の腕が伸びてきたから思わず身を捩って避けた。
こいつに捕まっちゃだめだと、とっさに思ってしまった。
「…なんだよ…それ」
男は意外だって顔をして、空振った自分の手を眺めている。
「ああ…そうか。あんた、桜井総合病院の跡取りだったな…」
どきっとした。
智にそのこと言ったっけ?
そもそも…俺の苗字なんか、言ったかな…
なにかの拍子に言ってしまったのかな。
覚えがなかった。
「誘拐対策なんか…小さい頃からされてるか…」
独り言のようにつぶやくと、その手を引っ込めた。
「智、帰してもらえませんか。あんたが診てても一向に良くならないじゃないか」
そう言って俺を見る目が、冷たくて。
思わず足が竦んだ。