第6章 Epistle to the Romans 5:12
「翔…」
「智…?」
なあ、俺のこと許してくれるか
「智…泣かないで…」
「ゆる…して…」
翔の目から、きれいな涙が一粒。
まるで星みたいにきれいな涙。
その星に触れてみたくて、手を伸ばした。
「智……」
その手を、翔の手が包んでくれた。
瞬間、あれほどけたたましく鳴っていた警報が、止まった。
急にシンとした世界に放り出されたように、無音になる。
俺と翔の荒い呼吸の音だけが、この部屋で生きてる。
「…落ち着いて…?智…」
宥めるように、翔の手が掴んだ手を俺の胸の上に置いた。
そしてゆっくりと、肩や腕を擦りだした。
「……俺は、殺してない……」
翔の動きが止まった。
ゆっくりと翔の目が俺を捉えた。
「うん……」
翔は小さく頷くと、また俺の腕を擦った。
…ああ…
なんて、あたたかい…
これは願望なのか
それとも悪夢なのか
とにかく、酷く安心できた。
だからきっとここは…天国なんだ…
あんたは、マリアなんだ
「俺はやってない…父さんも母さんも…姉ちゃんも…」
「うん…うん…」
あの日、家に帰った後の記憶はない──
だから俺が
もしかしたら、あの社員の言う通り俺が
「お…覚えて、ない…んだ…」
また少し体が震えた。
「気がついたら廊下で倒れてて…」
頭に鋭い痛みを感じた。
「記憶がないんだ…どうしてそんなとこにいたのか…」
「うん……」
「リビングで、父さんも母さんも…姉ちゃんも、倒れてた…」
力の入っていない、人間の体──
「ほのかに血の臭いもしてた…あれは…し…死んで…」
「智っ…もうっ…」