第6章 Epistle to the Romans 5:12
もう俺を見ないでくれ。
マリアから逃れるように体を翻す。
でもバランスを崩して床に倒れ込んだ。
「智っ!?大丈夫かっ…」
「いやだっ…見るなっ…俺を見るなっ…」
もうあなたの前で、俺は…
息をしていることも許されない。
「智っ…しっかりしろよっ!!」
頬に鋭い痛みが走って、床に突っ伏した。
翔に殴られたのだと気づくこともできず、俺は床を這い回って家族の姿を探した。
「ちがうちがうちがう…俺じゃないっ…父さんっ母さんっ…行かないでっ…姉ちゃん!行くなっ…」
「智っ…智っ…」
マリア様が俺を、憐れむように抱きしめ見下ろしてる。
「…俺はっ…俺はっ…許してっ…マリア様…」
「マリア様…?…ちょっと智っ…」
俺は逃げたんだ
あの時、助ければ
もしかしたら生きてたかもしれない
あの時逃げなきゃ
もしかしたら運び出せたかもしれない
でも怖かった
俺がやったんじゃないかと疑った、あの目が怖かった
床に倒れているあの力のない手足が
部屋にほのかに漂うあの血の匂いが
家中に漂う煙の臭いが
怖かったんだ
「許して…お願い…逃げてごめんなさい…」
「なんのことだよ…智っ…ねえっ…」
翔なのかマリアなのか
俺のこと抱きしめてくれる
あたたかい
あなたの腕はあたたかい