第6章 Epistle to the Romans 5:12
あたたかい腕が俺を抱きしめてくれる。
その胸に抱かれてると、何かが溶けていくような気がする。
「俺は、やってないのに…俺は逃げたんだ…」
「智…」
「何も覚えてない。何も…なのに…」
家の近所のおばさんや、学校のやつら。
みんな俺が反抗的だったとか、家族のこと憎んでたとか言う。
おまけにあの煙…
あれは二階にある俺の部屋から出火したって。
煙草火の不始末じゃないかって…あとから新聞で読んだ。
そんなわけ、ないのに。
煙草なんか吸ったこともなかったのに。
その『煙草火』の小さな炎は、俺の家族を飲み込んだ。
俺が、殺したことになった
「助けて」
「…智…」
助けて
俺の、マリア
「大丈夫だよ…大丈夫…きっと、やってない」
そう言って、ぎゅっと俺のこと抱きしめてくれた。
「ほんとに…?」
ぽたり、ぽたりと俺の上に雨が落ちてくる。
「ほんとだよ」
「…信じてくれる…?」
「もちろん」
これはあの日降っていた雨か
「信じるよ、智」
「ほんと……?」
それとも、翔の──
「俺が側にいるよ……だから、安心して眠って…?」
「ああ…ずっと、傍に…いてくれるか…?」
「うん…ずっと傍にいる…」
涙が
止まらなかった
その温もりに包まれて、泣き疲れて深い眠りに落ち込んでいった。
暗闇の中に吸い込まれるように。
でも不思議と、怖くなかった。
なにも。
……なにも。
『このようなわけで、一人の人によって罪が世に入り、罪によって死が入り込んだように、死はすべての人に及んだのです。すべての人が罪を犯したからです。』
【Epistle to the Romans 5:12 END】