第6章 Epistle to the Romans 5:12
警報の大きな音で、耳が痛い。
頭の芯が痺れるようだ。
ゆらり、ベランダにいる翔の姿が揺れた。
いや、揺れてなんかない。
揺れているのは俺の視界──
翔がベランダからこちらに振り返った。
「…智…?」
ひどく心配そうな顔をしてる。
でも俺は答えることができなかった。
「あぶな…い…しょう…」
全身に汗が噴き出してくる。
ねえ、智
一緒にいこう?
「…い…いやだ…」
寂しいよ
こっちにおいでよ
「やめろ…」
どうして
どうして俺は生き残ったんだ
どうして俺は逃げたんだ
どうして
死ななかったんだ
後を追えば、こんな思い
しなくて済んだ
あのときの焦げた臭い
ほんのりと漂っていた血の臭い
懐かしい家の匂いとそれらが混ざって
記憶が混乱する
「あっ…ああああっ…!!!」
「智っ!?」
誰か頼むから
俺を殺してくれ
誰か頼むから
俺をあの時に戻してくれ
「智っ…どうしたの!?具合が悪いの!?」
「ちがっ…ちがうっ…」
「じゃあどうしたの!?」
「来てる…来てるんだ!」
倒れそうな体を必死に支えているが、足に力が入らない。
「智しっかりしてっ…何が来てるんだよっ!?」
両肩を掴まれて翔の緊張で引き攣った青白い顔が見えた。
「違うっ…俺じゃないっ…」
マリア様
俺がやったんじゃない
あんなことできるはずない