第6章 Epistle to the Romans 5:12
闇夜を切り裂くような警報の音で目が覚めた。
胃をぎゅっと掴まれるような、不穏な音。
どうやら警報が鳴るまで、なんにも気づかず深く眠り込んでいたようだ。
まただ…どうして気づかなかった。
いくら病み上がりとは言え、情けない。
「なんだ…?」
部屋の中がきな臭い気がする。
「火事…?」
天井を見てドアの下の隙間を見てみたが、煙が入ってきているような様子はない。
「どこだ…」
窓からなにか見えないかと、ベッドから足を床に下ろした。
「智っ…」
その時、翔が血相変えて部屋に飛び込んできた。
慌てたのか、手には枕を抱えて。子供みたいだ。
「だいじょうぶ!?」
「…翔、これ、火災報知器の音か?」
「わかんない…でも、きな臭いから、他の階で火事があったのかも…避難しよう」
「ああ……」
翔の手を借りて、なんとか立ち上がった。
「でも…さ…」
「ん?」
「ここ、21階なんだけど…智、非常階段降りられないよね…非常時だからエレベーターは使えないし…」
「おまえそういうことは早く…」
「ごめんっ!」
そんな気はしてたが、そんな高層だったか…
「ちょっと、待ってて。ベランダ出て見てみるから」
翔は俺をベッドに座らせると、レースカーテンを開けてベランダに出ていった。
上を見上げると、ちょっと柵から身を乗り出した。
「うわ…上の階から煙が出てる…」
21階より上があるなんて。
一体ここ、何階建てなんだよ…
警報の音に紛れて聞こえなかったが、外では消防車の音がしてる。
それも何台も折り重なるようにサイレンの音が響いている。
かすかなその響きが、不穏に脳に入ってくる。