第6章 Epistle to the Romans 5:12
もう、少しくらい動くのも苦じゃなくなってきた。
数日前までは、ベッドの上にいるだけだったのに、少し起き上がっていると息が苦しくなって、すぐに横になってしまう有様だったのに。
こうやって体力が回復したの、翔にはわかるんだな……
「だいぶ、頑固な汚れだね…」
「すまん」
「あの日、雨降ってたもんね。かなり濡れてたし」
「……」
あの日のことは、話題に出したくなかった。
もしもターゲットの死体が見つかったら…
翔は俺とその事件を結びつけるんじゃないかと思ったから。
「それに智さ。倒れた時、泥水に頭から突っ込んだんだよね」
「は…?」
「なんか近くにでっかい水たまりがあってさ。そこに顔から突っ込んだんだよね。俺、焦ったよ」
そんなのあったか…?
もう今となっては思い出せない。
「水たまりで人って溺れられるんだよ?知ってた?死亡例も出てる」
俺が返事をしないのに、翔は必死でべらべらと喋ってる。
「だから思わず引っ張り上げたら、智が俺に向かって倒れ込んできてさ。俺までびしょ濡れになっちゃって…」
くくく…と笑うと、シャワーヘッドを取った。
お湯を出す音がして、俺の頭に温かい湯が掛かった。
「でも…智……」
翔がなにか呟いたが、シャワーヘッドから出る湯の音でよく聞こえなかった。