第6章 Epistle to the Romans 5:12
「こじんまりしてるでしょ。俺、掃除が苦手だからあまり広い家にしたくなかったんだよ…」
これでこじんまりとか…
暗殺なんて仕事をしてるから、いつ恨みを買って襲撃を受けるかわからない。
実際何度か危うい目にあったことがある。
だから襲撃されてもすぐ逃げられるよう、6畳一間で風呂トイレが一緒になってるような物件を転々として生活してる。
殺し屋なんか大抵同じ生活してるもんなんだと、松岡の爺さんが言っていたのを思い出した。
だから、洗濯機置場が中にあるってだけで贅沢なのに。
「こじんまりって言葉の意味、間違えて覚えてね?」
「へ?」
「なんでもね…」
そういえば、雅紀が言ってた。
翔は港区にある桜井総合病院の跡取り息子だって。
だからこの家をこじんまりなんて言えるんだ。
まあ、医学部だっていう時点でボンボンだよな。
それに翔自体、すごく上品だし。
食事のときのマナーの良さは、目を見張る物があって。
育ちが良くないと、あんなに綺麗に飯食えないよな。
「あ、ごめん。お風呂上がってから着るもの持ってきてなかった」
「ああ」
翔はドアから出ていった。
「ふう…」
改めて、脱衣所の中を見渡した。
入り口ドアの正面にドラム式洗濯機が置いてある。
その天井には少ない洗濯物なら干せそうなバーが通してある。
洗濯機の上には使い勝手の良さそうな棚が造り付けてある。
でもごちゃごちゃとして、タオルやら洗剤やらが置いてあった。
右手にある洗面台は大きな鏡になっていて、間抜けな俺の顔を映し出していた。
そこにデジタル時計が置いてあった。
時間の下に、小さく年月も出ている。
「…嘘だろ…12月…?」
あれから一ヶ月以上経っている。
道理で寒いはずだ。
そりゃ時間が経っているとは思っていたが。
「まじか…」
だから雅紀も、部屋まで乗り込んできたのか。
「悪いことした…」
よく考えたら、素人の家に乗り込んでくるなんて…雅紀らしくもない。