第2章 Matthew 6:8
力が抜けたのを感じても、更に締め上げた。
さっきのことがあるから慎重に。
息が絶えているのを確認しなければならない。
ジリジリと腹の熱が広がってくる。
男の手からカチリと音がして何かが落ちた。
地面に血まみれのペティナイフのような刃物が転がった。
どうやらコイツで刺されたらしい。
熱が一気に腹中に広がった。
ゆっくりと首に回しかけていた腕を解く。
ごつりと重い音を立てて男の頭が地面に落ちた。
変な方向に向いている顔の口から血の混じった泡が吹き出してる。
股間には異臭を放つ生暖かい液体が水たまりを作っていた。
「チクショ…」
こんなになるまで締め上げていたのなんて、この仕事を始めた頃以来だ。
今日は、何かがおかしい。
早く、帰らなきゃ。
早く、どこかに。
古い廃工場の中には、ホームレスが住んでいたのかダンボールや古いリアカーが置いてあったのは確認してる。
手探りでそれらを探し出すと、男の体をリアカーに乗せた。
ションベンやら血やらはダンボールで覆い被せた。
明日、ここは取り壊されることになってる。
だからこの程度の隠蔽でいいだろう。
腹の熱はどんどん広がっている。
冷や汗が、革ジャケットの下に着たシャツをぐっしょりと濡らしている。