第5章 John 20:11
「敵に…したくねえな…」
普段温厚な人を怒らせると怖いって言うけど、雅紀もその部類に入ると思う。
見た目と温厚な笑顔からは、とてもじゃないが裏稼業のことは想像もできないから。
今日のあの怖さは…ちょっともう体験したくない類のものだった。
絶対に背中を向けちゃ、いけない──
「智ー、起きてる?」
いつの間にか眠っていたようで、翔の呼ぶ声で目が覚めた。
「ごめん。起こしちゃった?」
「…いや、起きそうにはなってたから…」
もう部屋は薄暗くなっていた。
「もう夕方だから電気つけるね」
「ああ…」
翔がカーテンを閉めると、部屋は暗くなった。
すぐにシーリングに柔らかい光が灯る。
「今日はだいぶ眠れた?」
嬉しそうにベッドサイドの床に座ると、俺の顔を覗き込んできた。
額に手を当てて、熱がないか確認してる。
手から消毒薬の匂い。
「ああ…そうだな…」
「よかった」
一体、雅紀は何時に来たのか…
あんな明るい時間帯に来るなんて。
「あ」
「ん?どうかした?」
「いや…なんでもない」
そうか…翔がいない時間帯に、わざわざ来たのか。
だからあんな真っ昼間を選んだんだ。
そう思ったら、幾分だが体に入った力が抜けた。
──少なくとも、今すぐ翔をどうこうしようとは思ってないらしい
「なんか、いいことあったの?」
「いや?」
「でもなんか嬉しそう」
「…嬉しいとはまた違う…」