第5章 John 20:11
「いい子だ。智」
…こんな人のいい笑顔できるのに…
雅紀の本質は、どこにあるんだかわからない。
この温かい笑顔がそうなのか、それともさっき見せたみたいな冷酷な顔がそうなのか。
本気で俺のこと心配してくれるし、今の戸籍を買う時だっていろいろと動いてくれた。
和也のことだって…
まるで自分の息子みたいに、接してる。
だけど…
時々、雅紀の全てがわからなくなる。
……怖くなる。
「あ、俺のこと。櫻井翔に言っておけよ?」
「なんで」
「親戚のおじさんとでも言っとけ。こういう人が居るってだけでいいから。じゃないとおまえになにかあったとき、あいつを殺して押し入らなきゃいけなくなるじゃないか」
「あ……」
「ここを出る時、迎えが必要かもしれないだろ?」
小さく首をかしげて、俺の顔を覗き込む。
本当に優しげな、親戚のおじさんみたいな顔を作った。
「な?だから悪いことは言わないから。言っとけよ?」
「わかった…」
そう言うしかなかった。
雅紀が出ていった後、暫く動悸が治まらなかった。
やっぱり殺しのエージェントなんかやれる人だから、いろんな修羅場を潜っているんだろうし。
俺の知らない顔だって、きっといくつも持っているんだと思う。
でも今日みたいな、明確な敵意…
それを自分に向けられたのは、初めてだった。