第5章 John 20:11
まあでもいいことなのか…
雅紀が今すぐ、翔を殺すつもりがないってことは。
「じゃあ、なんだよ?」
「ふふ…」
「あ。笑った」
翔は嬉しそうに俺の脈を測りながら、俺の顔を見た。
「あれ…スマホ…」
「え?」
「なんでここにあるの?」
そういえば、雅紀が俺の枕元にスマホを置いていった。
サイドテーブルに翔が置いてくれて、そのままになっていたのにここにあるから、不思議そうな顔をしている。
「あ……」
「もしかして、誰かから連絡きたの?」
「ああ、まあ…親戚の、おじさんから…」
翔は嬉しいような悲しいような顔をした。
「そっかあ…よかったね」
そういうと、嬉しい顔は消えて悲しい顔になった。
それも一瞬のことで、すぐに翔は顔を逸してしまった。
「…で、迎えに来るって…?」
俺に背中を向けたまま、声だけは嬉しそうに作って。
ああ、そういうことか。
「そんなわけねえだろ…ここで世話になってるって、言っておいたよ」
「でも、おじさん心配しちゃうでしょ…」
「ちゃんと看てもらってるって言っといた」
ちらりと翔はこちらに顔を向けた。
顔がにやけてる。
「そ、そう…?」
「ああ。だから飯」
「もう。智はすぐそれなんだから…」
翔は立ち上がると、ぐきぐきと首を鳴らした。
くるりとこちらに向き直ると、ウインクして親指を立てた。
「じゃあ、今日は気合入れて俺、作るよ!」
「ヤメロ」
「遠慮しないで」
「いや、まじで」
【第5章 John 20:11 END】