第5章 John 20:11
「…なんでだよ…」
雅紀の言う通り、今まで10年。
そんなものは欲したことがなかった。
だって、そんな気になれなかった
俺は人殺しで
俺は追われてる身で
行きずりならまだしも。
そんな人、作れるわけもなかった。
「…でも、智がそんな気になってくれて。俺は嬉しいよ」
「は…?」
「まあ、相手が男だってのが意外だったけど」
「何、言ってるんだよ」
雅紀は曖昧に笑って、ぐしゃっと俺の髪を撫でた。
「……もっと、頼ってくれよ」
「え?」
「そんなに俺って、頼りないか?」
「そんなことないよ」
むしろ、仕事の時は頼りになる以上のこと、してもらってる。
「でも、肝心なとこで智は…」
「だから、ごめん…連絡できなかったのは…」
「まあ、こういう世界だからね」
雅紀は微笑みを引っ込めると、俺の顎を掴んだ。
「智と別れた後、殺すから」
酷く残忍な顔で俺を見下ろした。
「いいな?」
「……」
返事ができなかった。
雅紀は、そんな俺を見てシニカルに笑った。
「ま、今は楽しんでよ。いいとこのボンだしね。なんなら婿にでも入るか?」
「…何いってんだ…」
「冗談。怒るなよ」
顎から手を離すと、ペチペチと俺の頬を叩いた。
「暫く休みでいいから。治ったら店に来い」
店とは、雅紀の表向きの顔である喫茶店のことだ。
普段はそこの店主になりきってる。
「わかった……」
「じゃあ、なんかあってもなくても、定期的に連絡しろよ?」
小さく頷くと、雅紀は満足げに笑った。