第5章 John 20:11
「智、あのなあ…」
雅紀が溜息を付いた。
酷く静かな空間だから、息を吐きだす音が大きく聞こえた。
「…だからっ…あいつは、俺の恋人なんだっ…」
「……は?」
とんでもない言葉が口から飛び出した。
「え?ちょっと待て、オマエ…」
雅紀は混乱しているのか、自分の前髪をぐしゃっと掴んだ。
「え?櫻井の妹じゃなくて…?」
サクライ…ってだれだ…
「櫻井翔がおまえの恋人なの?」
「あ、ああ…」
翔の名字がサクライというのだと理解した。
「智…おまえ…」
「なんか、悪いのかよ」
「悪かないけど」
疑うような目でじろじろと俺の顔を見てくる。
「…ゲイだっけ?智」
「……バイだ」
「はーん…なるほど。バイねえ…」
男を抱いたことだってあるし、二丁目界隈に潜んでた時期もある。
今になって、この嘘なら突き通せるんじゃないかと思えてきた。
「櫻井翔には、どう説明してるんだよ?その傷のこと」
「…友人同士の喧嘩に巻き込まれたと思ってくれてる」
「ふうん…?」
「医者にいくと相手に迷惑かかるからって言ったら、自分で治療するって…」
「まあ、櫻井翔なら可能だろうね。なんせ桜井総合病院の跡取り息子だからねえ…」
桜井…総合病院…ってあの港区にある、大きな病院?
それが、翔の言ってた親の病院なんだ。