第5章 John 20:11
「…そんなに傷、酷いのか」
「いや…腹の傷自体はそうでもないって…それよりも合併症起こして、それが原因でずっと熱が出てて…」
「この部屋の奴がそういったのか?…そういえば、医学生だってな」
ひやりとしたものが、部屋に流れる。
そうだよな。
調べてないわけない。
雅紀がエージェントとしてやっていけるのは、こういった調査を徹底して、油断なく仕事を引き受けるからで。
そうやって、自分と暗殺者を守ってきた。
だからこそ質のいい暗殺者が集まってきて、雅紀のエージェントとしての仕事は軌道に乗ってた。
「智、やっぱり藪のとこ行こう?」
「え…」
「まだ医者になってないやつより、頼りになると思うけど?」
藪とは、雅紀の抱えてる闇医者の一人で。
俺は面識はないが、腕は良いって聞いたことはあった。
「でも…」
「でも?」
有無を言わさない、厳しい目でこちらを見下ろす。
じっと、俺の目の奥まで突き刺すように。
まるで俺の思考を読み取って、責めているかのように。
「…まだ動きたくないって?」
「ああ…」
「その理由は?」
「…それは…」
答えられない。
命の恩人だから、殺したくない。
そんな甘ったれたことを言えば、雅紀は躊躇なく翔を殺すだろう。
だから、翔を殺さない理由を必死で考えた。