第4章 Proverbs 28:13
「強い薬を投与させてもらったよ。白血球を増やすための薬…だから、体はすごくだるいと思うんだけどさ。お陰で熱は38度台まで下がってきた。だから意識も戻ったんだと思うけど…」
翔の手が、するりと俺の頬を包んだ。
「普段どれだけ不摂生してるのさ…70代のおばあちゃんくらいの抵抗力しかなかったよ?」
「えっ…」
「嘘だけどさ」
嘘なのかよ…
そりゃ健康的な生活は送ってるとは言えないけどさ。
「脅かすなよ…」
翔は少し笑うと、俺の汗と涙で張り付いた髪の毛をこめかみから剥がしてくれた。
額に張り付いていた前髪もそっと手で上げると、タオルで優しく汗と涙を拭いてくれた。
その姿が、誰かとオーバーラップして…
「もし…」
翔が言い淀んで、手も止まった。
しばらく何も言わないで俺の顔をじっと見ている。
「……?」
「もしも…智の知り合いで、秘密裏に入院させてくれる病院とかあるなら…」
「え…?」
そりゃ、あるにはある。
雅紀が抱えてる闇医者が何人かいるし。
でも…
「あるのなら、そっちに転院する…?勿論俺が送るよ。絶対に智のこと口外しない。約束する」
真剣な顔で俺の返事を待ってる。
「このままここにいたら、また智のこと危ない目に遭わせるかもしれない…俺、まだ医者じゃないし…ほんとはどうしていいか…」
目が潤んで、真っ赤になって。
今にも俺の顔に涙が降ってきそうだった。
「…そんな病院、ねーよ…」
「え……?」
俺がここで全快しないと。
こいつは雅紀に殺される。
もしかしたら和也や松岡の爺さんが来るかもしれない。
ここから自分で歩けない状態で出るって、そういうことだ。
即、翔の死を意味している。
だから意地でもここで元気になってやる。
俺はそう決めたんだ。
いくら翔が泣いても…
ここから動くことは、できねえんだ。