第4章 Proverbs 28:13
「やめてっ…父さんっ…」
「智っ!?」
「父さんっごめんなさいっ…休まないでっ…」
「どうしたの!?智っ…」
「…会社に…母さんと、会社に行ってっ…」
頬に冷たい感触がした。
驚いて目を開けると、翔が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
俺の頬を冷たい手で包みながら。
「…どうしたの…?怖い夢でも、見た…?」
ボロボロと涙が勝手に目から出ている。
こぼれた涙が目尻から溢れ出て、髪の毛を濡らしている。
その涙を、翔はゆっくりとタオルで拭ってくれた。
いい匂いのするタオルだった。
「大丈夫…?」
「…あ…俺…?…」
「急に高熱が出て、何日も起きなかったんだよ…」
通りで体が重い。
腹の傷も熱を持っているように感じる。
「ごめん…油断してたかもしれない。ちゃんとできる範囲では気をつけていたんだけど、敗血症を起こしかけてたんだと思う」
そう言って翔は唇を噛んだ。
青白い顔をして…
そういえば、ちょっと窶れたかもしれない。
血色の良かった頬は暗い陰を作っていた。
「…いや、そんな…ここ、病院じゃねえし…それに翔は医者でもねえし…気にすんなよ…」
普通の家でできる以上のことをしてもらっている自覚は充分あった。
だから感謝こそしても、こいつに謝られるようなことはなにもないのに。
「ナイフに良くないウイルスが付着してたか…それとも俺が外から持ち込んだか…ほんと、ごめん…」
悲しそうに微笑んで、翔は頭を下げた。
「…謝るなよ…」
おまえは悪いことなんて一切してないのに。