第20章 Romans5:3-4
「じゃあ、また連絡する」
「…智」
「ん?」
「行くのか?あのマンションに…」
雅紀はカウンターの椅子に腰掛けながら、こちらに背を向けてダーツの矢を手に持って的を狙ってる。
「…翔が仕事を辞めたっていうのが、気になる。だから暫く隣で張り込んで、翔の顔を見てみる」
「まあ、あんま深入りすんなよ?」
「…わかってるよ」
出口のドアに手をかけた瞬間、雅紀がダーツの矢を投げた。
遠すぎたのか、矢は的に当たったが刺さらず金属音を立ててコンクリの床に落ちた。
「こっちの仕事…どうする?」
「まだ…状況がわかるまで、入れないでくれ」
「わかった」
「それと、和也には…」
「上手いこと言っとく。うるせーから」
「ありがと」
そう言うと、雅紀はくるりと俺の方を向いた。
「なんかあったら、頼れよ?」
「え?」
「西島も使っていいから」
「雅紀…」
「じゃあな。今度は喫茶店のほうに来いよ。旨いハンバーグ、作ってやるよ」
雅紀は椅子から立ち上がると、ダーツの矢を拾いに行った。
「ありがとう…」
その背中に礼をもう一度言ったら、後ろ手に手を振った。
店を出て階段を登ると、もう外は暗くなっていた。
「…日が暮れるのが早くなったな…」
でも薄暗くなったはずの街の中は、ネオンでギラギラ光ってて。
今が一体何時頃なのか、よくわからなくなりそうだった。