第20章 Romans5:3-4
「おまえ正気かよっ!?」
正気も正気だ。
翔を守るためだったら、どんなことだってする。
例えそれが、自分の命を捨てることになっても。
「あああ…捻ったじゃねえかよ…」
「松岡の爺さんに按摩ってヤツでもして貰ったら?」
爺さんはよく疲れると、按摩だなんだ言ってたからな。
「はぁぁ!?ありえねーから!」
俺や和也と爺さんは年が離れすぎてるから孫と爺さんみたいな感じで付き合ってるけど、雅紀は一定の距離と緊張感を持って爺さんに接してる。
やっぱり爺さんの全盛期を間近で見てたからだろうか。
ちょっと怖がってるようにも見えないこともない。
だから、爺さんに翔のこと見守ってくれるよう頼んだんだ。
今はそれが随分うまく行ったらしいことだけは確信できた。
「ああ…そうだった…」
雅紀は右手を擦りながら、カウンターの左手奥のカーテンから奥に入っていった。
そこには狭い厨房があって、更にその奥には人が一人くらいは寝泊まりできる小部屋がある。
すぐにカーテンを開けて戻ってくると、手に重そうな紙袋を持っていた。
「ん」
「なにこれ」
「言ってただろ。大野製作所の従業員名簿と調査した分の写真とかなんとか」
大野製作所とは、俺の父さんと母さんの会社のことだ。
俺がやろうとした調査は断念せざるを得なかったから、雅紀に依頼していたんだ。
「…こんなあんの…」
「手が痛えから早く受け取れ」
「あ、ああ…」
両手で受け取ると、ずっしりと重みを感じた。