第20章 Romans5:3-4
爺さんはため息を付いた。
『通いの家政婦とやらが来てるっていうのに、松本が飯を運んでるのはおかしいと思ってな。病院に問い合わせてみたら、櫻井先生は辞めましたと来たもんだ』
「えっ…?辞めた?」
『ああ…患者を装って、どうして辞めたのか聞いてみたけど、ちょっといろいろあってと言葉を濁された』
一体、なにがあったっていうんだ…?
『どこか他の病院で働くのか?って聞いてみたけど、それも未定だそうでな』
研いでいたナイフを作業台に置くと、手を拭いた。
スマホを持ち直すと、やっと頭が現実に戻ってきた。
「ありがとうな、爺さん」
『智よお…』
「わかってる。ちょっと俺も調べるよ。どうなってるのか」
『でも、いいのか?近づかないって決めたんだろ?』
「…まあ、そうだけどね」
爺さんはまたため息をついた。
『俺が調べてやろうか?』
「え?いいよ…そんな…」
『俺だって暇じゃねえんだけどよ。何年もあいつのこと見てたから、情が移っちまったんだろうなあ』
「ぶ…素直に言えよ。翔のことが心配だって…」
『言えるかよ。そんな青くせぇこと…』
あんなでかい図体の爺さんが、どうやら照れているようだ。
「いいやつだろ…?あいつ」
『…まあな。お医者様になるほど偉いやつなのに、全然気取ってねえ、いいヤツなんじゃねえか?』