第19章 Epistle to the Galatians6:5-7
「櫻井先生、能村さんの様子はどう?」
「それが…あまり…」
瀬戸さんは眉根を寄せると、ドアに嵌まっているガラスからミーティングルームの中を窺い見るような仕草をした。
「ちょっと入らせてもらうね?」
「あっ…」
止める間もなく瀬戸さんはドアを開けて上半身を突っ込んだ。
「井ノ原先生、ちょっと」
瀬戸さんの声が聞こえると、井ノ原先生がドアのところまで走ってきた。
「どうしたんだよ?」
「能村さんの様子が気になって」
「ああ…」
「ちょっとだけ、話しをさせてもらってもいい?」
「…それは」
「大丈夫、検査をしたって事までは彼女から聞いてるから」
強引に瀬戸さんはドアの中に入ってしまった。
「ちょっと!朝香!」
井ノ原先生はその背中を追っていった。
そうだ。
あのふたり御夫婦だった。
普段は瀬戸さんは旧姓で仕事をしてるし、あまり馴れ合うような姿を見たことがなかったからすっかり忘れてた。
「…いけね。紙」
プリントアウトした用紙を持って、恐る恐るミーティングルームに戻ると、瀬戸さんが椅子に座っている能村さんの肩を抱くように背中を擦っていた。
井ノ原先生と三宅先生は、コーヒーを飲みながらじっとそんな二人の様子を見ている。
能村さんはカップを手に持って、また涙を流していた。