第19章 Epistle to the Galatians6:5-7
「まだ検査してみないとわからないけど、比較的悪性度は低い肉腫で…」
「困りますっ…困るんですっ…!!」
能村さんがいきなり大きな声を出して立ち上がった。
座っていた椅子がひっくり返って、ミーティングルームに大きな音が響いた。
「能村さん!?」
三宅先生が駆け寄って能村さんの肩を支えるように掴んだ。
「困りますっ…誰にも頼れないんですっ…実家ももうないですし、離婚した夫は絶対に頼れませんっ…無理なんですっ私っ…」
「能村さん、落ち着いて!」
「あの子達は私が居ないとだめなんですっ…」
「能村さん!!」
三宅先生が能村さんの正面に回って、肩を掴み直した。
「しっかりして!ちゃんと井ノ原先生の話を聞いて!」
「でも…三宅先生…でも…」
能村さんが泣き出して、三宅先生は俺の顔を見た。
俺は急いで倒れた椅子を戻すと、三宅先生は能村さんを椅子に座らせた。
「…翔、コーヒー持ってきて」
「わかりました」
ミーティングルームをそっと出ると、外には整形外科のスタッフが集まっていた。
「…どうしたの?能村さんの大きな声が聞こえたけど…」
整形外科病棟の看護師長である瀬戸さんが聞いてきた。
「それがあの…」
能村さんの病気については、これからカンファレンスで発表されることになるから、言っちゃだめってことはないだろう。
だけど、今話してることはプライベートに関わることだ。
みんなにどう説明したらいいか、わからなかった。